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 ふと、足を止める。
さっきまで走っていた背後の道、そこに何か居るような気がする。でも、何かは分からない。そんな気持ちが頭の中を渦巻いている。
 また足を動かし走り出す。
 その疑問の正体は分からないまま。


 そういえば、自分は自分がどこから来たか知らない。気がつけばそこに居た。只それだけ。
 しかし、自分はそれでいいと思っているし、この存在を咎める者もいはしない。
 だから自分は存在していられるのだろう。とりあえずそう解釈しておく。
 己の存在を咎める者が現れるまでは。


 走っても走っても変わりのない廊下に、その風景を壊すものが現れた。彼女の部屋のものとは違うが、何の変哲もない、木の扉。大きさは人が一人通れるぐらいで、これは彼女の部屋と同じ。
 それを思ったと同時に、彼女の名前を知らないことを思い出す。
 彼女はどんな名前なのだろう。最早聴覚以外のほぼ全てを失ってしまった彼女が、生まれた時に。まだ愛という名のゆりかごに包まれていた時に渡されたものが知りたかった。
 そこにあったドアを通る。
 そこにいたのは、女。
 それはあの部屋にいた彼女とは違うが、それでも普通の人間ではない雰囲気を醸し出す女だった。
 机の上に座るその姿、流れるような黒い髪、その姿はまるで、鴉だった――――――。

 その彼女は此方を見、そして私の姿を見つけたように焦点を合わせるとこう言った。
「お前の名は?」
 それだけしか言わなかったが、それだけで彼女の一面が見えるようだった。
多大な威圧感があり、しかし艶やか、優雅さを併せ持った人で、普通の人間ならきっと見惚れてしまうであろう人だ。
 彼女の質問には答えなかった。
 答える必要もないだろうし、答えたところで何になるというのだろう。
 それより、今はあの音を止める方が先決だ。
 そこから立ち去ろうとした時、彼女が発した言葉に、私は思わず立ち止まる。

「お前、この世の万物じゃないな。」

 それが存在について疑問を持っていた私にとって、求めていたものかは分からない。

 だが確実に。

 彼女は、何かを知っている。
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