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 漆黒の闇の中。如何なる光も届くことのない深淵。
 魑魅魍魎の跋扈する、現世とは遠く離れた闇の世界で、悲哀に満ちた表情を浮かべ、何者にも遮ることのできない力を湛える、その者は妖魔。
 その姿は、透き通るような白い肌、燃えるような赤い髪、見たものを凍りつかせるほどの青い瞳。  
 闇に墜ちて以来、いつしか自分の名も忘れ、かつては何者だったのかも思い出せない。ただ、あるのは、永遠の美しさを手に入れたい、という欲求のみ。
 彼女は、その欲求ゆえに、深い深い眠りから覚めたのだ。
「私に必要なのは、時。永遠とも呼ばれる時」
 何も照らす物のない暗い闇の中、光るのは彼女の純白の肌。なびくのはまるで炎のようにはぜる長い髪。
 彼女の手が真っ直ぐ上に向かって伸びた。同時に、光が一直線に頭上に昇っていく。
 その光の先に見えるのは月。やがて、光は空を伝って地面にゆっくりと降りていき、消滅した。
 深淵の闇から、その力によって現世と空間を繋げたのだ。
 月明かりに照らされたそこは荒涼として何もない場所だった。空気は冷たく、虫の声一つ聞こえない。遠くには枯れ木が数本立っている。
 その場所に彼女は足をつくことなく空間に漂い、月の光に照らされて、純白の肌がますます妖艶に輝いて見えた。
「フフフ・・・」
 鈴のような彼女の笑い声と同時に、無数の闇に巣食う魑魅魍魎達が、おぞましくうごめく。まるで、彼女を守るかのように無数に溢れ出してくる。
「時。世界中の時を私のものにする為の、アイテムがここに眠ってる」
 赤い唇が僅かに動くと、彼女の近くの地面に魔法陣が描き出され、地響きと共に地中から何かが現れる。
 それは、土に埋もれて汚れた、大きな鐘だった。
 
 鐘の記憶は告げる。
 かつて、この鐘をついた魔女がいた。
 この鐘をつける人間は、時間を止めることができるかわりに、その命を失う。 
しかし、魔女はさまざまな力を自在に操り、人間とは思えない力を使い、欲しいものを思うがままにしてきた。その力は、まるで地獄の底から来るようだ。
 やがて魔女は、力を使いすぎた為か、徐々に理性を失い、ただ、永遠の美しさを求めるだけの恐ろしい魔物になってしまった。
 とある勇者達によって地獄の闇に突き落とされたが、力を完全に失ったわけではない。いつの日かよみがえる時が来る。

 魔女が力を使うと、土で汚れていた鐘が造られたばかりの鐘のようになった。
「この鐘の力を今度こそ、私のものにしてみせる」
 そこにいたはずの魔女が消え、刹那、鐘の上に姿を現した。
 鐘は言う。
『永い眠りから覚めたと思えば、私を使うのはいつぞやの魔女か』
「永遠の時を我が物にする為」
『私の力を使う者は、魂を私に食い尽くされるのだ、地獄の魔女よ』
「フフフ・・・」
 彼女の透き通るような指先は、空中に何かのスペルを描き出した。スペルは風に流されるかのように次々と指先から新たに描き出される。
 そして、スペルの帯は、空中に巨大な魔法陣を描き出し、時の鐘全体を覆い尽くした。

 ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・・。
 世界の時を止める鐘が鳴り響いた。その音はその場にいない者にも聞き取ることができた。が、やがて全ての時が止まり、誰にも聞こえることのない音となる。
 新緑の森をなでる風や、煌煌と光をたたえる湖や、人々の影を創る太陽までもが、時を奪われ、一切の動きを止めてしまった。
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