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 見張り兵の初撃の狙いは袈裟切りだ。
 ミャオから見て左上から振り下ろされた――疾い!
「くっ!」
 鉄扇で受け流し、無駄を承知で呼びかけてみる。
「目を覚ませ! あんた、魔術で身体能力の限界を超えた動きを強要されてるぜ! このまま動き続けたら体中のあちこちの腱や靱帯が切れるっ!」
 ミャオが叫ぶ間にも、二撃、三撃と連続して剣戟が繰り出される。
 いつものようにちゃっちゃとケリをつけたいところだが、さすがのミャオも限界を無視したパワーとスピードで動き回る見張り兵をそう簡単に攻略できない。
 ミャオが跳んだ。
「よし!」
 フェイントだ。
 頭上に振り上げた見張り兵の剣を、ミャオのマフラーが絡め取っていた。
「ぬう……うっ!」
 互いに足を止め、マフラーの一方の端をミャオが、マフラーに絡め取られた剣の柄を見張り兵がしっかりと握り、力の限り引き合っている。特殊な防刃繊維を編み込んだマフラーは、そう簡単に剣で千切られる心配はない。
 ミャオは突如マフラーから手を離した。
 見張り兵はバランスを崩し、後方に仰け反る。
 ミャオは身体を回転させつつ、見張り兵の懐に飛び込んだ。
 見張り兵は剣に絡み付くマフラーを無視して振り下ろしたが、ひと呼吸遅かった。
「がっ!」
 ミャオの鉄扇が見張り兵の鳩尾に決まった。見張り兵は一声発して気絶した。
 だが――
「動くな!」
 騒ぎを聞きつけ駆けつけた衛兵達は、ミャオを敵だと認識してしまったようだ。
 なにせ、今のミャオは素顔。しかもシナリー兵と戦っていたのだ。
 衛兵に囲まれたミャオは、鉄扇を捨てて手を上げた。
「ちょっと待て。話せばわかる……」
 ミャオの言葉を聞いて近付こうとした若い衛兵を、年上の衛兵が片手で制する。
「ダメだ。こいつが伸したのは地下牢の見張り当番。であれば、外見こそ変わっているがこの男……。捕まえておいた魔導師かも知れん!」
「了解しました、隊長! それで、どうします?」
「どうやって脱獄したか知らんが、二度と脱獄できぬよう、手足を弓矢で貫いてくれよう。弓兵!」
 隊長の号令に応じ、数人の衛兵がミャオを取り囲み、弓に矢をつがえた。同時に矢を射かけられたら、いかなミャオとて避けようがない。
「おいおい。話ぐらい聞けよな……」
 ミャオは両手を上げたままげっそりとつぶやいた。



 一方、地下ではふたりの魔導師が睨み合っていた。
「貴様、“盲目のヴィンス”か。名前だけは知っているぞ、最強魔導師の誉れ高き男だからな。……だが、久しぶりとはどういう意味だ?」
 両眼を包帯で覆っているヴィンスを前にしても、ジュラーダは全く油断した様子を見せない。
「あなた、アビルトに雇われるよりもずっと以前、盗賊の用心棒みたいなことやっていましたね?」
「だったらどうした?」
 ほう、憶えていない?――薄ら笑いを口元に浮かべ、ヴィンスがさらに聞く。
「コルトンの村を襲ったとき、村ごと焼き討ちしましたね?」
「……」
 無言の肯定。ヴィンスの薄ら笑いが消える。
「コルトン村には、両親と妹が住んでいた」
「なに!?」
「わたしのこの目も、そのときに」
「そうか、貴様コルトン村の出身……。復讐か」
 包帯越しに、ヴィンスの目の位置が白く輝く。
「うおっ!」
 何の前触れもなく、ジュラーダの前後左右や天井、床から複数の光の刃が襲いかかった。
 命中!
 しかし、ジュラーダの形をした土塊が溶け崩れただけだった。
「ぐあ!」
 今度はヴィンスが叫ぶ。
 背後から剣で貫かれたのだ。
 ヴィンスの背後の床から、ジュラーダがせり上がってくる。
「! 味な真似を……」
 ジュラーダが突き刺したのも、ただの土塊――ヴィンスの形をした土人形にすぎなかった。
 気配を探るため、ジュラーダは目を閉じて集中した。
 次の瞬間、崩れたヴィンス型土人形の中から腕が伸びてくる。
「ぎゃあああ!!!」
 伸びた腕がジュラーダの右足首を掴んだ刹那、強烈な紫電が飛び散った。
 右足首から下を失って転倒しながら、ジュラーダはヴィンスの腕が生えている土に剣を突き立てた。
「くっくっくっく」
 仰向けに転倒したジュラーダは、天井を視界に入れて凍り付いた。
 天井に両足をつけ、逆さに立っているかのような格好のヴィンスがそこに居たのだ。ヴィンスの右腕の肘から先が――ない。
 痛みを無視し、ジュラーダが足元を見ると、そこにあった腕が消えた。
 再び天井を見ると、ヴィンスの右腕が元に戻っている。
 ――が、そのヴィンスが呻いた。
「うっ!」
 ヴィンスの右腕から剣の切っ先が生えていた。
「ふふふ。転んでもただでは起きぬ。……!?」
 嘲笑したジュラーダが目を見開く。
 ゆっくりと自分の腹に視線を動かすと……。
「ぐふっ! く、くそ」
 剣の切っ先だけを空間転移させ、ヴィンスの右腕を奪うつもりだった。しかし、ヴィンスの方が上手だった。再び転移した切っ先は、ジュラーダの腹に突き刺さったのである。
「ジ・エンドだ」
 天井からヴィンスの言葉と共に紫電が降り注ぐ。
「おのれぇぇ!!」
 結界で紫電を防ぐジュラーダだったが、腹と足首の痛みのせいで集中できない。
「ヴィンス。貴様の最強伝説は、ここで終わりだ。どうせ敵わぬのならもろとも――!」
 ジュラーダは最後の手段に打って出た。
 次の瞬間、ジュラーダを中心に巨大な光芒が膨れ上がる。



 耳をつんざく轟音。喩えるなら、間近で打ち上げ花火と落雷の音を同時に聞いたような衝撃だ。
 次いで王宮を揺さぶる強烈な揺れは、地下で激しい爆発が起きたことを如実に物語っていた。
「な、なんだ!?」
 衛兵達は構えていた弓を取り落とし、立っていた者は例外なく床に転がる。
「今だっ!」
 倒れそうになったミャオを魔導師が抱え、そのまま空間転移した。
「な、なんだ!?」
 景色が変わる。
「国王の部屋です!」
 ミャオは魔導師の叫びを聞いて視線を巡らす。
「うわ、やべぇ!!」
 床に転がる国王の上に、本棚が崩れ落ちようとしていた。
「うわわわわ!!」
 国王を抱えて転がったミャオは、本棚の直撃は免れたものの、大量の本に埋もれてしまった。
「おお。ミャオではないか。おかえり。アビルトは寒かったであろう?」
 ミャオは以前、国王にだけは素顔を見せたことがある。流石に国王にせがまれては拒めなかった。
 場違いな挨拶を寄越す国王は、50かそこらの小肥りの男であるが、この状況に動じていないという意味では大物と言えよう。
「……ただいま戻りました」
 本に埋もれたまま苦笑しつつ返事をするミャオ。彼は視線を魔導師に向けて言った。
「おい、そこの魔導師」
「は、はい」
 自分を助けてくれた男を、勘違いした衛兵から助けただけのつもりだった魔導師は、彼が国王と知り合いだったことを知って緊張していた。
「俺が元宮廷道化師だってこと、内緒な♪」
「わかりました」
「あ、あと……。あんた怪我してるのに、俺を助けてくれてありがとう」
「大丈夫です。ちょっと足の骨が折れた程度ですから」
 国王は魔導師を無視して会話に割り込む。
「しばらく顔を見なくて退屈しておったぞ。またわしを楽しませてくれ」
 将軍の思惑どころか王宮の危機にさえ無頓着な自由人ぶりは健在だ。
 ミャオは頭痛を堪えつつ、気絶したふりをした。
「なんじゃ寝不足か? つまらんのう」
「……」
 魔導師が頭を抱える。ミャオの頭痛は魔導師にも伝染したようだ。
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