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ヴィンスが繋ぎあげた空間と空間との間を、ヴィンスとミャオの二人は疾走していた。
きっとこの先では魔術戦になる。
空間を維持する時間だって、短い方がいい。
魔術戦ならミャオの出る幕はほとんどないに等しい。
しかし、どう見たって腕力がないヴィンス一人を行かせたのではあまりに危ない。
「わたしは腕力はないからね」
と薄く笑ったヴィンスはそれを自覚しているようではあった。
しかしだからと云って鍛えようと云う認識はないようだ。
そう見たミャオはバヌールが手をひらりと振って行くように命じたのに素直に従ったのだ。
そして、本当にヴィンスは体力がないようだった。
だから今疾走しているのは正確に言うならばミャオ一人だ。
ヴィンスは下手に消耗されたらかなわないと判断したミャオが背負っている。
痩せこけた身体は見た通り軽くて、背負ったまま大道芸をこなせるな、とミャオは思う。
軽やかに駆ける、残り数メートル。
出口の向こうに何が待つのかは判らないけれど、相応の覚悟をして、二人は出口を駆け抜けた。



その頃ゴウは互いの船に乗り移って戦う白兵戦のただなかで戦っていた。
厚い鋼の大剣を見事に操り、一帯の敵を薙ぎ払っていく。
エレナの姿がちらちらと視界に入ってくるたびに、ああ彼女はまだ生きているのだな、と認識した。
戦いの最中は自分のことで精一杯であるべきだ。例え相手がどんなに力不足であろうとも。
相手を見くびることは敗北、つまり死に直結する。
ここはサーカス団ではなく、自分は護衛をしていればいいわけではない。
戦場での、命の取り合いだ。
眼の前の敵の刃をしっかりと受け止める。
力の拮抗。
戦場でゆっくり鍔迫り合いをしているのは不毛だ、と相手の腹を蹴飛ばす。
そいつが待ち構えていたゴウの味方に貫かれるのを確認しつつ、背後からの敵の斧を弾き飛ばした。
容赦なく、斧の刃と同じ運命を持主の首にも辿らせ、両側からの奇襲を避けて相討ちを誘う。
味方同士だったはずの二人の返り血を体の前面に浴びて、ゴウの白い軍服が赤に染まる。
その死体の裏から飛び出してきた男と二三度切り結んで、その剣ごと袈裟がけに斬り下ろした。
もともと砲撃で相手の数を削ってある。
「勝機は我らにあり!」
そうゴウは吠えた。



ミャオは部屋の隅に転がっていた。
失神していた魔導師と明らかに下っ端の見張り兵を抱えて、横っとびに跳んだ刹那。
自分の背中からの力と右側からの爆風に近い暴力的な力の塊。
体中が軋んだ。
関節が悲鳴をあげ、小さな掠り傷ですら血を噴き出す。
辛うじて受け身を取ったお陰で石造りの壁に勢いよくぶつかる事態は免れたが、それにしても痛い。
口の中を切ってしまったらしく、溢れた血を吐き出すと、ヴィンスがちらりとこちらを見やった。
ヴィンスはどうやったものか上手く床の上に立っていた。首を傾げている。
「大丈夫かな?」
「…まあな」
ミャオが唸ったのによかった、と笑って、ヴィンスは敵に向き直った。
「こんにちは。久しぶりだね―――ミスター・ジュラーダ」
相対する、白髪の魔導師。
あの男だ、とミャオが確信する瞬間、ヴィンスが手のひらをミャオに向けた。
「この人が相手だと、わたしも加減はできないと思うよ」
ちょっと避難しててくれるかな、と云って、ヴィンスは部屋中の人間を地上へ転移させた。

ミャオはゆっくりと立ち上がった。節々の痛みはこの際放っておこう。
同じように立ちあがった見張り兵を油断せずに見つめる。
虚ろな瞳。
操り人形のような、不自然な立ち姿。
「操られたのかよ」
鉄扇を握り締めて、ミャオは猫のように背を曲げて独特の構えを取った。
「お前のこと助けてやったのにな」
見張り兵が勢いよくこちらへすっとんでくる。
ミャオはちょっと苦笑して、大地を蹴った。

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