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ミャオはいい加減この連絡が取れない状況に苛立っていた。
まだ戦いは始まっていないのにゴウからの返答がないのは、幾らなんでもおかしい。
なんだ。何が起きた?
ざわざわと背筋を舐めるように這い上がる、厭な予感。
傭兵の乗っ取りが成功し、荒々しい歓喜のムードに満ちた船内。
その中でたった一人浮かない顔をしているミャオを、バヌールは見逃さなかった。
「どうした、向こうの仲間と連絡が取れないのか?」
やっぱりこの女侮れないな、と思考の半分で思って、ミャオは曖昧に頷いた。
「…もしかしたら」
ちらりと頭を掠める、あの魔導師の姿。
いや、この距離を考えれば…しかし、万が一、ということもある。
眉を寄せるミャオを見やったバヌールは、低く長く口笛を吹いた。
ミャオがそのバヌールの突然の行動に、一応控え目に眼を丸くしていると、彼女はにやりと笑った。
「魔導師のことなら、私の部下に適任がいる」



は、とミャオが短く息をついたその時、その肩にそっと手が載せられた。
「お呼びですか」
ミャオがぎょっとして振り向くと、両眼に包帯を巻いた痩せぎすの男が立っていた。
くすんだ金髪と、その華奢と云っても過言ではない身体、そしてワンピースのような民族衣装。
確かに傭兵全員に軍服は支給されていなかったようだが、それにしたって浮いている。
この船内にはあまりにも似合わない男の姿に、ミャオは小さく息を呑んだ。
「申し訳ない、眼が不自由なもので」
そう云って、彼は骨ばった指でミャオの肩をそろそろと辿った。
「随分と床に物が転がっているじゃないか」
盲目のわたしには歩きづらくて叶わないよ、とバヌールの方を正確に向いて彼は笑った。
「ヴィンスだ」
バヌールが男を指して云った。どうぞ宜しく、とフランクな言い方でヴィンスは笑った。
「きみのことは聞いているよ、ミャオ」
最後に耳元で囁かれた名前に、ミャオは小さく肩を竦める。
「よろしく、ヴィンス。でも、君は見えてるんだろ?」
いや、視力はないよ、と弁解するように言ってヴィンスはふっと笑った。
油気のないぱさついた髪をかき回して、まあ見えなくても問題はないんだけどね、と渋々認めた。
「どうせ眼に見えるものなどたかが知れている」
宣言するように謳うようにジョークを云うように、両手を広げてヴィンスは云った。
「それにしても、シナリーは酷いことになっているよ」
突然ヴィンスはジョークから仕事モードの貌に変えた。
君の仲間の船だって危ない、とヴィンスはビジネスライクに云った。
「やれるか?」
バヌールがうっすらと笑みを刷いた唇のままで云う。
「勿論」
ヴィンスはうっそりと笑った。
骨だらけの身体からうっすらと立ち上る酷薄さ。
にじみ出るほどのその空気感に、ミャオはただものじゃねえな、と密かに身の内を震わせた。



ゴウはざわざわとした違和感が消えたのを感じた。
云う事を聞かなかった大砲も、舵も、全てが今は沈黙している。
嵐の前の静けさのようなそれに不気味ささえ感じて、ゴウは思わず身構えた。
「ゴウ」
隣のエレナが張りつめた声でゴウの名を呼ぶ。
「ああ…いや、大丈夫だ」
ミャオの連絡が聞こえた。
その内容を聞くにつれて、安堵する自分がいることをゴウは自覚している。
隣のエレナに大丈夫だ、とサインを出して、彼女の横顔を密かに見つめる。
自分は死んだっていい。覚悟はとっくにしてきた。
彼女だって覚悟があることには変わりない。
それは判っている、けれど。
それでも、彼女には死んでもらいたくない、と思う身勝手。
大切に思うからこそではあるが、戦士である彼女にはきっと無礼なのだ。
しかし、切実なその願い。
それがまだ赦されるのだ、とゴウは密かに、しかし確かに、安堵、した。

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