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 ドン!

 大砲の発砲音に驚いたゴウは、信号兵に怒鳴りつけるようにして手旗信号で味方鑑に合図を送った。
(馬鹿野郎! なぜ撃った!?)
 もとより発砲命令を受けた上での出航ではあるが、彼我共にまだ射程圏内ではないのだ。
 信号が返ってきた。
(砲兵は全く操作しておりません。大砲が勝手に作動しています!)
「なにぃ!?」
 ゴウの脳裏に、王宮内で捕まえた魔導師の姿がよみがえる。
「あ……の……野郎っ!!」
 間違いない。あの魔導師は自分からわざと捕まり、獄中から強力な魔力を使っているのだ。王宮からの距離を考えれば、普通の魔導師なら魔力が届く心配がないのだが、あの魔導師は特別強力な奴だったのだ。
 味方に信号を送る。
(全鑑、対魔法結界展開!)
「安心できん。対魔法結界が勝つか、魔導師の方が強力か……」
 つぶやきながら、信号兵から旗を奪い取り、自ら手旗信号を送り始めるゴウ。敵艦に向けて旗を振り始めた。
「どうするのさ、少佐? 撃っちまった以上、ドンパチはじめるしかないだろう?」
 エレナが不思議そうにゴウに聞く。
「ああ。搭載した装備は全て使う! 準備しとけ!」
 ゴウの返事を聞くと、細かい指示を受けることなくエレナは右舷へと走り去っていく。
 敵の甲板士官が双眼鏡を目に当てているのが辛うじて判る距離まで、双方の艦隊の距離が縮まってきた。
(今のは警告だ。その海域はシナリー王国の領海である。退去勧告に応じない場合、武力攻撃も辞さない)
 敵艦から、すぐに返事が返ってきた。
 双眼鏡をのぞいていた信号兵がゴウを振り向いた。青い顔をしながら、相手の信号通りに告げる。
(笑止! 本艦隊は貴艦隊を撃破する)
「まあ、そう来るだろうな」
 相手の返事はゴウの予想通りだ。
「全鑑! 最大船速! これより敵艦隊と交戦するっ!」
 ゴウの乗る旗艦の大砲が勝手に動き出した。
「俺の船えぇー! 俺の言うことを聞けぇー! 今はまだ撃つ時ではないっ!!」
 大砲が動きを止めた。
「王宮からこれだけ離れているのだ。対魔法結界と乗組員の意志の力があれば、魔導師ごとき恐るるに足らん! 僚艦にもそう伝えよ!」
「はっ!」

*          *          *


「全鑑! 艦隊戦用意! 総員、戦闘配置!」
 伝声管を使い、艦長から各船室へと命令が伝えられる。
 俄に慌ただしくなり緊張感の高まる鑑内で、ミャオは別の緊張から解放された。
「天井から監視とは趣味が悪い。しかしやーっといなくなったか」
 だが事態は最悪だ。今からシナリー艦隊との艦隊戦に突入しようとしている。
「このままじゃゴウの奴と撃ち合いだ。同士討ちなんてぞっとしねえぞ、おい」
 考えろ……!
 窓の外に目を遣り、必死に考えを巡らすミャオ。その時――
「なっ!?」
 僚艦の砲塔が、あろうことかこちらを向くのが目に入った。
「くそ、ひとまずバヌールに知らせるか!」
 傭兵はメインクルーではなく、砲撃戦の間は出番がない。敵艦との砲撃戦に勝利した際、甲板上の生き残り兵と戦う役目なのだ。
 ミャオは、さきほど退出したばかりのバヌールの部屋のドアを激しくノックした。
「リャオか、入れ!」
 ミャオは偽名を使っていた。
 入室したミャオの左右から、剣が突き出された。ミャオはふたりの男に挟み撃ちにされた格好となった。
「な!?」
 屈強なふたりの男達は、バヌールの副官とも呼ぶべき立場の傭兵だ。
 ミャオは一旦は目を見開いたものの、努めて冷静に振る舞った。
「何のテストですか、これは。それより、味方から大砲を向けられてますよ、この鑑に!」
「ふむ。見込んだ通り、度胸のある男だ、お前は。そこで、ひとつ質問なんだが」
 副官たちは剣を収めない。
「……」
「我々は傭兵だ。アビルトに雇われている。だが、どうやら給料を払うのが嫌になったらしい。……我々をわざわざ旗艦に乗せるというから探りを入れていたのさ」
 戦艦ひとつ沈めてでも傭兵を始末しようというのか、アビルトは。
「シナリーを手に入れれば安いものなんだろうさ、戦艦一隻くらい」
「わかっていたのなら……、しかし、さすがに多対一では勝ち目がないのでは?」
「まずはこちらの質問に答えてもらおう。貴様があくまでアビルトのために戦うか、私についてシナリー側に協力するかを聞きたかったのだよ」
 ミャオは内心でほくそ笑みながら、性急な答え方をしないよう慎重に考えを巡らせた。
「私はもともとアビルトに雇われたつもりはありませんよ。あなたに雇われたと思っています。しかし、待ってください。シナリーに協力するにせよ、それをどうやって伝えるんです?」
「見くびってもらっては困るな。これでも数えられないくらい修羅場を生き残ってきたんだ、我々は。面の割れてる仲間しか乗っていないよ、この艦には」
(ってことは、他の戦艦にも傭兵のスパイが乗り込んでいるってことか)
 思案顔のミャオに対し、バヌールが掲げて見せたのはミャオのマフラーだった。
「――!」
 マイクに気付かれたと考えるべきだ。流石に冷や汗を流すミャオに、バヌールは微笑んで見せた。
「心配するな。平和ボケしたシナリーにいつまでも留まろうとは思わん。この艦隊戦が終わるまで、貴様はわたしの部下だ。報酬はシナリーの王宮からがっつりといただく」
 言い終えると同時にバヌールが投げて寄越したマフラーを受け取ったミャオは、仮初の上官ににやりと笑いかけた。
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