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「ミャオの奴め、相変わらずだな」
 眼前にはコバルトブルーの鮮やかな空が広がり、少し視線を下げると、水平線に堤防が見える。そして足元には空を更に濃くした深い海の青が広がっている。
 ゴウは、磯の香りのする海辺で茶色の短い髪をなびかせながら、大男達に指示をだしていた。
 いや、ゴウだって、小柄ではない。しかし、海の男たちはそれ以上に屈強で大柄な連中が多かった。
 ブーツを履いた足で大地を蹴れば、さきほどまで油断して近づいていた船虫が蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。
 その大柄な連中を顎でこき使っている、正しくは仕事をさせているのは、我がシナリー王国からの指示が下ったからである。
 依然シナリー王国の海上に位置する敵艦は動こうともせず、攻撃するでもなければ、退くわけでもなかった。
 それに威圧された王宮内では、なぜ攻撃しないのか、軍を動かせという圧力が、ゴウの所属する海軍にものしかかってきた。
 上官から命令されれば、断ることのできない世界。
 今は手を出すべきではないとゴウは判断していたが、王宮の皇族たちはそれを良しとはしなかった。
 つまり、敵艦を始末する事を海軍に委ねられた事になる。
 結果、ゴウの部隊にも出撃命令が下ったのだった。
――やれやれ。こっちはミャオの奴がうまくやってくれるのを望むばかりか。こう戦力に差があってはな。
 ゴウは舌打ちしながらも、肩に担いでいた剣で、サボっている奴の背中をつつく。
「・・・」
 ゴウの無言の圧力に、強そうな大男が頭を下げた。
「あ、これは少佐、申し訳ありやせん」
 そいつは、その辺に置いてあった積荷を担ぐと、作業を再開した。
――うちの部隊が出張ってどこまで持つか。
 彼は振り下ろしていた剣を再び肩に担ぎなおした。
 軍隊は戦力を保持してはいる、しかし、その力をどう使うかが重要なのだ。最初から不利と分かっていても戦力を投入するのか。政治で解決できることはなかったのか。
 願わくば戦いにならずに事を得たいと思っていたのだが、王宮に従事するもの、それは許されないことだった。

 背後から声がする。
「こっちは準備が整ったぜ、少佐」
 ハスキーボイスに、日に焼けた褐色の肌。
 ゴウが、踵(きびす)を返すとまず飛び込んできたのは胸元。風船のように張り裂けそうな、女性のそれは、いきなり彼の頭上に現れた。
 うっと声に詰まっていた彼は気を取り直すと、背後の高い石段の上に登っているその声の主を見上げた。
「はっ」
 飛び降りると、ゴウよりも身長は低い。
 褐色の肌に、白い皮の鎧と白いブーツ。長い赤毛はポニーテールにしている。
「エレナか。相変わらず、作業が早いな。他の船団はどうだった?」
「ばらつきはあるが、まあだもう少しかかりそうだね。少佐も油を売ってるようだな」
 すると、ゴウは、少し肩をすくめてみせた。
 他の指揮下の船団も遅れがでているのだから、ゴウの部隊もそれと同等で差し支えはない。
「今回は、急ぐ旅ではないのでな。無理に急かす必要もない」
「へぇ。敵さんがいるってのにかい?」
「ふっ、残念ながら我々に敵う相手ではないのでな。王宮の連中も・・・」
 言いかけて、軽く頭を左右に振った。
「おっと。ここでは慎むべきかな」
「なら、船上で聞こうかい?」
 エレナは指揮艦であるゴウの船に、戦闘員として乗り込む事になっている。
「ははは、暇な航海になればな」
 死地に赴く事になるかもしれないのに、彼は軽快に笑い飛ばした。
「これから戦争になるってのに、お気楽だな」
 エレナはそれを冷やかすように言った。
「それとも何か、策でもあるってのかい?」
「さあな」
 ゴウは軽く鼻であしらった。
「ちっ。そこまでは私には言えないってのかい。ま、いいさ。王宮の腰抜どもに一泡吹かせてやる」
 エレナはすぐ後方に見える白い壁の王宮を見やった。
「王宮の腰抜どもはちっとも役にたたない。ここのところ上からの命令もマトモじゃないしね。まるで、生気を抜かれているようだよ。私は近寄りたくないんだけどね」
 そこのところはエレナと同じ事をゴウも感じてはいた。しかし、立場上口には出さない。
「どんな命令であれそれに従うのが、国に仕えると言うこと。お前も、今後も軍にいたいのなら、口を慎むべきだな」
 そんなゴウに対して、「おもしろくないね」と言いながら、彼女はその場を後にした。
 頭上には白いカモメが鳴きながら羽ばたいている。
 風は良好。
 帆走(はんそう)にはもってこいだ。
名称未設定-11

 戦力に差があるとはいえ、ここは港に面した王国。それなりの軍備はある。
 港にはずらりと並ぶ戦艦、その出航準備に追われる乗員たち。
 中でもひときわ目を引く塗装の船が汽笛をあげる。
 中央の煙突から煙を吹く。魔動炉に火が灯ったのだ。
 徐々に岸壁から離れていくと同時に、船員達がセイル(帆)を上げる作業にとりかかる。
 マストに登り、ヤード(マストに垂直に交わる横棒)に結び付けられているロープをはずして行くと、白いセイルがちらついてくる。
 ロープを外すと次はセイルを上げる為に別のロープを手にして甲板を走る。
 滑車が音をたてて回ると、一枚ずつ帆がはられていく。
 白い帆がはられた船団は風の力と魔動炉の力の併走で沖に出る速度を増して行く。
「さて。うちらも行くかい?」
 日陰でくつろいでいたゴウは、すっくと立ち上がった。
「なんだい、それを決めるのは少佐の仕事だろ?」
 エレナはゴウが歩き出す前に、自分の乗るべき船に向かって歩き出した。
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