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 ひとたび興業を行えば、連日大盛況だった。サーカスは庶民の娯楽として大人気だったことも手伝い、熱狂的なリピーターも多く興行収入は群を抜いていた。
 座長はツェンと名乗った。彼が集めたメンバーは、いずれ劣らぬ大道芸の芸達者揃いだった。彼自身、太刀を呑み込んだり、絶妙なナイフ投げを得意とする大道芸人だったのだ。
 ツェンは道化のミャオよりおそらく一回りは年上だが、その見事な筋肉の張りはミャオを上回るものだった。
 当時としては、彼ら同様に一座を組んだ団体の中で、男性ふたり、女性ふたりの組合せも珍しかったし、演目の多さも他に類を見なかった。
 猛獣使いを披露する女性はリーファ、綱渡りを披露する女性はフローネという名で、若くて見目麗しい彼女らの存在が客寄せに大きく寄与していたことは想像に難くない。実際、素肌も露わな派手な衣装を着たリーファが猛獣に芸をさせたり、別の演目では同様の衣装を着たフローネがナイフ投げの標的にされたりする刺激的でスリリングな演目は、特に観客の人気を集めた。
 4人ともファミリーネームを名乗らなかったが、4人が同時に行う空中サーカスなどは息もぴったりで、家族のような結束力が感じられた。個室の外にいる時はいついかなる時も道化の化粧をとらぬミャオを含め、揃って黒髪であることも家族らしさを演出していたのかも知れない。

 しかし、世の常というべきか。
 金が集まれば、やっかむ者が現れる。
 最初のうちは無視しても実害のない、脅迫じみた手紙や幼稚な嫌がらせがいくつかあった。ツェンたちはあっさりと無視しつづけたが、効果がないと知ると犯人の行動はエスカレートしはじめる。
 犯人は同業者かも知れなかったし、ファンの中でも特別な感情を抑えきれなくなった輩かも知れなかった。
 未然に防ぐことができたものの、猛獣のエサへの毒の混入やテントへの放火未遂といった、とても無視できない事件が起きたことを受け、ツェンはやむを得ず用心棒を雇うことにした。
 用心棒の名はソウ・ゴウと言った。若いくせに茶髪をオールバックにした、えらく貫禄のある偉丈夫である。
 早速、ミャオがゴウをからかった。

「なあ、ゴウさんよ。用心棒なんてつまんないだろ。俺と一緒に軽業やんねえか?」
「人には向き不向きがある。俺はお前のようにはできん」
 ミャオはゴウのまわりをくるくると飛び回る。
「じいちゃんが言ってたぞ。やる前からできないと言うヤツは、ろくな大人になれねえってさ」
 ゴウの肩に手をつき、そこに倒立するような格好をして飛び越えるミャオに、ゴウは相反するふたつの感情が入り乱れるのを感じた。
「見事だ。だが、鬱陶しいっ!」
 ゴウは堪えきれなくなったのか、正拳突きを連続で繰り出す。
「ほっ。よっと。は――」
 ゴウの拳を危なげなく避けた。いや、避けたつもりのミャオだったが、3発目の拳が目の前にあり、絶句した。
「寸止めだ。お前はすばしこいが、少し動きが単調だな。読みやすいぞ」
 してやったり。挑発的に言い放ったゴウだったが、意に反してミャオは笑い出した。
「はははは! すげえぞ、ゴウ! 俺の動きについて来たのはあんたが初めてだ!」
 毒気を抜かれてぽかんとするゴウの肩を、ミャオはぽんぽんと叩いた。
「ほら見ろ! あんたと組めば、新しい軽業ができそうだぜ!」
「魅力的なプランだが、俺は用心棒だ。あんたたちの興業中に一緒にテントの中に入っていたら仕事にならん」
 真面目な顔で正論を言い始めたゴウだったが、途中から表情が緩んでしまった。
「おかしなヤツだな、お前は」
「お互い様さ」
 この時点で、ミャオとゴウのふたりは誰もが認める親友となった。

「なあ、もう勘弁してくれよぉ!」
 独学で様々な勉強をしてきたゴウは、知識が豊富だった。そこで、歳のそう変わらぬミャオに勉強を教えてくれた。しかし、幼い頃から身体を動かすことが好きだったミャオは、机の前で長時間座っていることが苦手だ。
「だめだ。どんな職業に就く者でも、最後は学問が物を言う」
 頑固なゴウに、それなりに詰め込まれるミャオではあったが――
「へーんだ! 俺たちゃ芸で稼ぐ。学問なんて関係ないね!」
 最後は必ず同じ捨て台詞を吐き、ゴウの隙をついて机の前から姿を消すミャオであった。


 そんなサーカスを、興業の合間のある日一人の使者が訪れた。
「貴殿等の能力を、国のために役立ててほしい」
 ミャオは、わけのわからない人物の妄言など、座長のツェンが一蹴してくれると思っていた。サーカスの興業よりも優先されることなど、自分たちの日常に入り込むはずがないと思っていた。
「かねてより考えておりました。私どもの能力でお役に立つのであれば、なんなりとお申し付けくださいまし」
 それは、慌ただしくも楽しかった日常が、音を立てて崩れ去る瞬間だった。
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