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 ハンラスは気付いていた。
 この中では道化の次に身軽なフィリダが枝に捕まってしまった理由に。
 枝の上の方にあるのは薬草。多分彼女が見つけたものであり、自分たちの生命線だ。
 走っていたハンラスが立ち止まり、ロッドを構える。その足元ではシルフィーナちゃんが眠っていた。
「道化! フィリダちゃんに向かって真っ直ぐ登っていけ! 今度は本気で行く」
 ハンラスの言葉に、少し驚いたような表情を見せて振り向いた道化だったが、すぐに親指を立て、にやりと笑った。
「承知! 薬草は後回しか?」
 どうやら道化も気付いていたようだ。ハンラスもにやりと笑って応じた。
「同時に回収だ――道を作る。私に任せろ!」
 ハンラスの瞳がこれまでと違った真剣な輝きを帯びる。
「ハラ アラミダ ゾラキ ラキダキ ゼム!」
 熱風がその場の全員の頬を撫でる。

 ――ゴウッ!

 ハンラスのロッドから炎が飛び出し、2つの方向へと伸びる。細長いロープのように波打ち蠢くその様はさながら2匹の蛇のようだ。
 炎の蛇はフィリダを取り囲む枝を威嚇し、彼女から遠ざける。そしてすかさず炎の壁となると、道化とフィリダが薬草に到達するルートを確保した。
「おっさん!!」
 道化は薬草へと向かわずハンラスに声をかける。
「!?」
 反応が遅れた。
 鋭く尖った何本もの枝が、ハンラスの身体に襲いかかる。
「お任せあれ」
 ムシャバがハンラスに駆け寄り背を合わせると、瞬時に結界を展開して枝を防いだ。
 そこへ薬草を回収した道化とフィリダが合流する。
 結界を張ったまま、ムシャバが言った。
「我々をここに誘い込んだのが何者かは知りませんが、我々を捕まえようとした連中とは違いますね。ここから出られないことを承知で口封じするつもりだったとしか」
「坊さん、敵さんの心当たりはあるのか?」
 道化の問いかけに、ムシャバは首を横に振る。
「いえ、捕まえようとした連中は何者か知りません。口封じしようとしたのは……我がジクテン公国にとっての敵とみて間違いないでしょう」
「ぬああ!!」
 ハンラスの気合い。炎の壁は彼らとシルフィーナちゃんを中心に円形の壁を形成した。
「知ってること全部話してくんねーかな?」
 道化の言葉に、ムシャバは少し考える素振りを見せた。
「今はまだ無理ですな。その代わりといってはなんですが、あなたがたのタイムリミットを解除しましょう」
「できるのかよっ!」
「それをすると、私はほぼまる一日行動不能に陥ります。その私を連れて森から脱出していただくことが条件となりますが」
 道化とフィリダとハンラスの3人が顔を見合わせる。
 誰からともなく言葉を紡ぐ。
「考えるまでも……」
「ないわね」
 3人の同意を確認し、ムシャバは炎の壁の内側で両手を合わせてお経を唱える。
 やがて彼の頭部が光を放ち、薬草に向かってその光を注ぎ込んだ。
 まず、シルフィーナちゃんの口の中に薬草が入り込む。
 すぐに目を覚まし、立ち上がるシルフィーナちゃん。
 続いて3人の口の中に薬草が入り込む。
「お」
「なんかさっきまで重かった身体が少し軽くなった」
「毒が消えた証拠ですな」
 その言葉を最後に、ムシャバは気絶した。
「おっさん」
「ああ」
 道化とハンラスが協力してシルフィーナちゃんの背にムシャバを括り付けると、森から脱出する手立てを探るように炎の壁の外側を睨み付けた。
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