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道化とハンラスが逃げ始めたのを視界の隅で確認して、フィリダは危険を察知した。
しかし、全員を救うための薬を放っては行けない。
これがなければ、みんな仲良くお陀仏だ。
いかにとっさの出来事とは云え、飛び移った時に薬草を置いてきてしまったミスが痛い。
今から始めなければ、到底時間的な余裕はないのだから。
だが、フィリダの逡巡を、暴れまわる枝は見逃さなかった。
それはほんの一瞬の隙。
フィリダは世界が影に覆われた、と感じた。


「おい、フィリダちゃんが!」
ハンラスの言葉に、道化とムシャバは彼女がいた筈の所を振り返った。
そこには枝が絡み合ってできた、歪な籠が出現していた。
「なにやってんだよ、あいつ…」
道化は眉をよせ、舌打ちをしかけて、ムシャバの視線に気づいた。
しっかし、こいつも喰わせもんだ、と道化は唸った。
ハンラスにしたって、本当はきっと、へっぽこ魔術師なんかではないのだ、多分きっと。
じゃなきゃあんなことは易々とは行かないに決まっている。
素性は知れず、能力も隠し合い、お互いの腹の内をささやかに探り合っている。
そう云えばここにいる全員は殆ど成り行きで同じ道行を行っているが、深い繋がりはないのだ。
ただ、生き延びる確率を増やすがために共にいるだけ。
「……仕方がない」
ここで生き延びなければ、あんたの期待にも沿えないんだぜ、と道化は弁解した。
目蓋の裏には、人とも扱われない下賤の身の自分に、頭を下げた彼の姿が浮かんでいた。


仕方がない、と呟いた道化が俊敏に走り出した。
ムシャバはその背を眼で追う。
流石に自分とは違って、軽業師のようなことをしている道化は身が軽い。
さて、自分には何ができるだろうか。
そう云えば、何かが引っ掛かっている気がするのだが。
しかし、ムシャバの思考はハンラスの声に邪魔された。
仕方がない。
「ここはひとまず、即席の共同戦線を張りましょうか」
その方が生き延びられる可能性は高い。
当たり前だ、頼むぞ、とハンラスが微かに笑う。
……おや。
「あなたも修羅場を幾つも掻い潜って来たお人のようですねえ」
でなければ、この状況下で笑ったりなぞ出来るものか。
小さな声のセリフは、耳に届かなかったようだ。
あるいは聞こえなかったふりなのかもしれないが。
「俺たちのすべきことをしなくては」
ハンラスが云う。
ムシャバは頷いて答えた。
何度目かの危機を迎え、互いの間の緊張が少し緩みかけてきている。
このままではお互いの隠した秘密を剥し合うことになるのも近いだろう。
しかし、ムシャバですらそんなことは考えず、動き出したハンラスのあとを追った。

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