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2008.04.28 十話 大逃走

 一同は各々の全速力で走って逃走した。
あの木の化け物が敵なのかなんなのかは誰にも判っていない。
ただ、自らの生存本能に従って、一同は四散した。
そして。
「おーい、シルフィーナちゃあああーん」
「…うっせえよ、あんた」
はぐれたシルフィーナちゃん(ラクダ)を我が子を呼び求めるが如く探し求める商人、ハンラス。
そして、それを一刀のもとに両断する道化師と云う、先行き不安な二名と。
「なむ…はぐれてしまいましたか。走った速度と時間とを考えるにかなりおふた方とは離r」
「話が長い!それにしても、何であのおっさんはラクダ置いて逃げたわけ?」
ぶつぶつとはぐれたふたりの冥福を祈るような(不吉)僧侶、ムシャバ。
的確な突っ込みをしながら、シルフィーナちゃんの手綱を握る女盗賊、フィリダ。
そして、主の姿を追い求めるかのように落ち着きのないラクダ…シルフィーナちゃん。
「微妙な組み合わせよね…」
「というか、我々にはラクダの扱いなど判らないのです」
どうすべきか、と眉をひそめたフィリダがぽそりと呟いた。
「……いっそ、どうしようもなかった時の非常食、とか?」
「殺生はいけませんので、私は…」
気の乗らない、といった様子をあからさまに出したムシャバを、フィリダは冷やかな目で見た。
「それであなたが死んだとしても?」
皮肉たっぷりの声、厭味じみた言葉。
ただし、ムシャバは顔色一つ変えずにそれを受け流した。
「それで私が死んだとしても、です」
それが私の修行と云うものですから、とつらっと答えた僧侶の横顔を、フィリダは睨みつけてやった。
ウソ臭い。
人間生きていくのが一番大事で、死んでもいいなんてただの贅沢にしか、フィリダには思えなかった。

 「フィリダー、ムシャバのおっさーん!」
「シルフィーナちゃーーん!」
こちらは賢明にもお互い話すことを無駄だと知っているのだろう、はぐれた仲間を探すのに専念している。
はあ、と道化が息をついた。
「そうだおっさん、あの木のバケモンの正体分かるか?」
ふっと訊ねたその言葉に、ハンラスはつまらなさそうに返した。
「私が知るか」
「だよな」
元からあまり期待はしていなかった、と言いたげな反応の薄さで道化は返した。
ハンラスはその様子をおもしろくなさそうに見て、なんだ、と云った。
「私は知らないだろうと思ってたんなら最初から聞くなよ」
「世の中には万が一、ってことがあるだろ」
肩をすくめて振り返り、にたり、と笑ってみせる。
ハンラスは道化に気付かれないように顔をしかめた。
昔からハンラスは道化が嫌いだった。
ピエロと云ったりクラウンと云ったりするが、それが怖くて怖くて仕方なかったのだ。
今目の前にいる、自分よりもかなり年下の道化も化粧を施している。
その、人間とは異なる主張をしているそれが嫌いだ。
なんだか厭な思いが膨れ上がってきて、ハンラスは自分の相棒のラクダの名を大きく呼ばわった。

 ここは何だかよくない場所だ、とムシャバは思った。
この次から次へと訳の判らないことが起きる状況のせいかと思ったが、何かが違う。
苛立ちを増幅させ、不満を掻き立てる。
不安は刻一刻と増して、何にでもいいから当たり散らしたくなる。
先ほどから辺りの木にも気を配っているから余計に気力を消耗するのだ。
先程木の妖怪に襲われたことは皆覚えている。
あれは恐怖と云うよりも衝撃で、ショックのままに逃げ、そして分散してしまったのだ。
これはかなりよろしくない状況だ、とムシャバは思っていた。
心を平静に保つ修行をしている己でさえこれ程心掻き乱されるのだ。
何か悪しきものがいる。ある、と云うべきか。
はっきりとわからないのは分散しているからか、身の回り全てから発されているからか。
ムシャバは立ち止まって集中してみる。
ただ、フィリダに苛々した顔で変なものを見る目で見られただけだった。
変な気の出所はわからない。
まずははぐれた二人と落ち合うことだ、と思って、ムシャバは二人の気を探った。

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