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 ぎぎぎ、と音がする。ミノタウロスの全身を覆う氷が再び解け始めている。
 ミノタウロスの左腕がぴくりと動く。肘と肩の関節から、小さな氷の塊がいくつか地面に落ちた。
 ぎ、と音がする。右腕の手首のあたりが少しだけ振動した。
 家々の屋根の上を全力疾走してきたフィリダは、そのミノタウロスに向かって迷わずどんどん近付いていく。
「見ぃつけた♪」
 フィリダは猫族のようなしなやかさを発揮して跳躍した。彼女の目は、ミノタウロスのすぐそばに立っている男を見据えている。その男をめがけ、空中で回転しつつ飛び降りる。
 その男もやはり普通の商人風の格好をしているが、他の闇の商人たちとは大きく違う点がある。
 ただひとり、そいつだけミノタウロスのそばで立ちつくしていたのだ。
 いや、それよりもなによりも。
「こいつには生気があるっ!」
 フィリダがその男を召喚術師だと判断する決め手となったのはその一点に尽きた。
 襲いかかってきた闇の商人たちは、誰も彼もまるで操り人形のように生気がなかったのだ。

「はああああっ!!」
 フィリダの裂帛の気合い。
 落ちる力をそのまま利用し、踵落としをするつもりだ。
 狙うは召喚術師の脳天。
「!」
 召喚術師はまるで手品のように右手にカードを出現させた。
 そいつが叫ぶ。
「風よ!」
 モンスターの召喚ではない。スペルだ。
 風属性の魔法でフィリダの攻撃を阻止するつもりだ。
 呪文を唱えさせると、魔法が完成してしまう。
「させるかあああ!!」
 フィリダは屋根から飛び降りた姿勢のまま懐からナイフを抜いた。
 そのまま予備動作もなく、抜きざまに投げ放つ。
「青い壁となりて我を包みた――!」
 召喚術師は呪文を最後まで唱えることができなかった。
 フィリダのナイフがカードを破り、召喚術師の指を浅く切った。
 思わず、召喚術師は怪我をした右手を左手で掴む。
 次の瞬間!

 ――ごき!

 ものの見事にフィリダの踵落としが決まった。
 両手がふさがった召喚術師は、フィリダの踵を腕でガードすることさえできなかったのだ。
「おやすみなさぁ~い♪」
 そのフィリダの言葉を合図にしたかのように、ミノタウロスは消滅した。


 まだ断続的に炎を吐く道化師から少し離れたところに立つ商人が称讃の言葉を漏らす。
「見事だな、あの女盗賊」
「おっしゃ! やったか」
「いつか、私にもあの蹴りをお見舞いしてほしいものだ。スカートの中身が――」
「黙ってろエロオヤジ!」
 まだ喧噪は収まらない。
「おいエロ商人、こいつら消えねえぞ! ヒトでないのなら何だってんだよ!」
 再び火を吐く道化師。
「こいつらはな……」
 商人はロッドで闇の商人を殴りながら答えた。
「……オートマトンだ!」
「は? 何それ、わかんねえ!」
 もう一度火を噴く。
「そろそろタネが切れる。もう火を吐けなくなるぜ!」
「そいつは弱ったな」
 商人がロッドを構える。
「はあああ!」
「……」
 何も起こらない。
「おいエロ商人。今の何だ」
「気にするな。単なる失敗だ――うわ危ない!」
 道化師は商人のすぐそばに向けて火を吐いた。

「お?」
「なんだ?」
 商人が“オートマトン”と呼んだ闇の商人たちが動かなくなった。
 ふたりが同時に同じ方向を見る。
 僧侶と思しき、痩せて背の高い男が立っていた。
「異教の僧侶だな。ジクテン王国の坊さんか?」
 道化師の質問に、僧侶が答えた。
「いかにも。ドーブ教の僧侶、ムシャバと申します」
「この自動人形どもを本来の泥人形に戻したのは、あんたの法力か」
「法力と呼ぶほど大袈裟なものではありませんが、概ねそいういう解釈で合っております」
「めんどくさいしゃべり方をする坊さんだな……」
 道化師の独り言には全く反応を見せず、ムシャバが言葉を継いだ。
「偶然とはいえ、あなた方が手にした包み……。非常に危険なものです」
 商人が聞き返す。
「ほう? どう危険なんだね?」
「その前に確認を。臭いを嗅ぎましたか?」
 道化師が答えた。
「胡椒の臭いがしたぞ」
「そうですか。残念ですが」
「なんだよ?」
「あなた方は感染しました。7日以内に我が王国の“セイローの森”に自生する薬草で解毒しなければ確実に命を落とします」
「……」
 しばし固まる道化師と商人。ふたりで顔を見合わせる。
 空を見上げ、地面を見る。
 彼らは言葉の意味を反芻して……。
「な」
「なんだってー!?」
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