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 三人は闇の商人達を片っ端から叩き伏せていた。
大体、召喚した本人を倒せばいいなどと云われたところで誰だか判らないのだ。
特に、こんな喧騒の中では。
闇の商人の数がやたらめったら多すぎるのだ。
「酷いなあ、殆どパニックだよ」
道化はぼやきながらもしっかりと闇の商人の鳩尾に鉄扇を叩き込んでいる。
次いで右頬を張り飛ばし体勢を崩したのを抱きとめて、項の一点を中指の第二関節で突いた。
意識を失った身体に用はない、と脇に投げ捨てる。
離れた位置で揉み合っている商人を見つけて叫んだ。
「おっさん、あんたの魔法はあとどれぐらいなら保つわけ?」
ロッドで一気に二人を殴り飛ばした(ように見える)商人が怒鳴り返してくる。
「多分あと四、五分だ!」
多分ってなんだよ多分って、と呟きながら辺りの気配を探ろうとしたとき、右から小刀が飛んでくる。
「余所見すんなってことかな」
空中でそれをとっつかまえて、持主の首の側面を柄で打ってやった。
「ま、あの女盗賊が動くだろ」
多分。
 フィリダは周囲に気を配りながらも闇の商人達と格闘していた。
女だと甘く見たことを後悔するまでもなく彼らはなぎ倒されてゆく。
「ちょっと!いい加減にしなよね!」
これでは術者を見つけるどころではない。
まるでどこからかどんどん湧いて出てくるみたいに、闇の商人達は引きもきらないのだ。
「ああもう…そうだ、道化!」
閃いたのか、フィリダは唐突に道化を呼ばわった。
「はいはい」
人混みの中から、背中合わせに道化が現れる。
彼もそれなりに消耗しているのか、若干息が上がりかけていた。
フィリダは抑えた声で云った。
「道化、こいつらの眼を引いてくれない?」
道化の眼がすいと動いてフィリダをとらえる。
値踏みするのによく似た視線だった。
数秒のあと、道化は黒い唇を歪めて笑った。
「ああそういうこと。分かったよ」
任せなよ、人眼を引くのが道化の仕事さ。
 道化はそう云ってフィリダから離れた。
そして、混沌とした一角から火の手が上がった。
フィリダは闇の商人達がそちらに気をやった一瞬に無事だった民家の屋根に上がった。
「これで全体が見える」
 そのとき商人は道化の薄い背中の後ろにいた。
前にいたらまる焦げになるよ、と云われて壁際まで退くと、思い切り息を吸った道化が火を噴いた。
「…お前も魔法が」
「使えないよ。喋ってたら火が切れる。今は黙ってて」
早口で云って、道化がまた火を噴いた。
商人は凍りついたミノタウロスを見やった。
だんだんと氷が溶けてきているらしく、キラキラときらめく部分が減ってきている。
ロッドをそちらに向ければ、氷の部分が少し増えた。
これであと数分は時間稼ぎができるはずだ。
周りにに闇の商人はうようよと寄ってくるものの、火が怖いのか若干間合いを遠く取っている。
「…奴ら、もしかしてヒトじゃあないかもしれん」
「じゃあ何」
「あれは、」
云いかけた時だった。
屋根の上のフィリダが、勢いよく走りだした。
俊敏に屋根と屋根とを飛び渡る姿には全力疾走する動物に似た美しさがある。
「何か見つけたみたいだな」
商人はうっすらと笑みを含んだ声音で云った。
それに応えるように、道化が特大の火の玉を噴く。
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