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私には目がありません。
あぁ、ごめんなさい突然こんなことを言ってしまって。
いえ、最近お客さんが増えてちょっと嬉しいんです。
といっても貴方で二人目なんですけどね。でも、そもそも人に会うこと自体私にはあまりあり得ないことでしたから。
まぁ、つまらない話なんでしょうけど、聞いてもらえますか?いえ、聞いてもらえなくても一人で勝手に喋るんですけど。あぁ、聞きたくないのなら、コレは私のヒトリゴトだとでも思ってください。
はい。少しは、わがままになってもいいのかなって。思えたんです。
で、何の話でしたっけ?
そうそう。そうでした。私は目が無いんです。舌も鼻も手足もありません。
確かにくっついてはいますけど、使えないものは無いのと同じでしょう?
同情とかはしないでくださいね。だからって辛いとは思ったこと無いですから。みなさん私をかわいそうとかいう顔で見るんですけど。私自身はそんなこと思っていませんから。
だって私耳だけはいいんですよ。それはもうこの世の誰にも負けません。


言葉を話すことがコレほどまでに大事だったとは思わなかった。
人の口は、息をするだけでは死んでしまうかもしれない。この口からは言葉を出すこともできるのだから。
今はただ、それだけで楽しい。
ネコさんに話を聞いてもらってから、何だか世界は少しだけ明るいところなのかも知れないって。
相変わらず、この目に光は届かないけど、それでもきっと世界は明るいに違いないから。
私は話した。昨日の音。今日の音。そして明日の音。
どれもこれも、違う音色・違う旋律で。世界が音で出来ていることを。
その音は眩しいくらいに明るいものだと知ることが出来た。
世の中を暗くしていたのは、私の中にいた私で。
それを晴らしてくれたのは、キッカケを作ってくれたのは、大きな、大きな一匹のネコ。
そんな他人にとっては、たわいも無くつまらない話で。それでも私にとってはこの世の全てであることを、貴方は少しわらって聞いている。
この穏やかな風。緩やかに窓から吹き込み、今日も咲く一輪の花を揺らしていた。
その花の色も、香りも私には手にとるように理解できる。それがここにある世界。
ようやく私は世界を手にした。


―ゴーン。ゴーン。ゴーン…

突然響く不吉な音。
遠く遠い、見知らぬ場所から、私はさらに戸惑うものを耳にした。
貴方には聞こえないかもしれないけれど。
最も恐れていたものが。最も聞きたくないものが。
そうだ。きっとコレはなにかの間違いだ。
聞き間違いに違いない。
だったらどうしてこんなにも体が震えているのだろう?
そんなことなどあるはずが無いと思いたかった。でも、それ以上に、私が何かを聞き間違えることなどありはしないのだ。
そして、コレほどまでに夢であって欲しいと思ったことは今までになかった。

理解してしまうからこそ、理解したくないこともある。
音は時としてとても残酷で、知りたくないことを私に伝えた。
それは性質の悪い呪いのようで、現実に追いついた悪夢でもある。
そうして私は願望を持った。生まれて初めてといってもいいだろう。
今の私には、眼前の適わぬことに“諦め”以外の答えを用意できるようになっていた。
コレだけ奪われつくした体で生きてきたのだ。こんなときくらい何かを希っても誰にも文句は言わせない。
希い、望むこと。それは私が初めて抱いた希望そのものだ。

ひときわ大きな鐘の音。
それがなんなのかはすぐにわかっていた。
今までこの音が、あんなにも不安だった理由がわかった。
そして、今までよりも明らかに大きな音である理由がわかった。
あの鐘を鳴らす原動力がソレだというのなら、誰よりもソレを持っていたものが原動力になったに違いなく。
そして私は、そのものに出会い。
そして私は、そのものに救われたのだから。

つい最近までベッドの上で死んでいた私は、結果が変えられないものだと知らなかった。
手遅れではないとか、まだ自分に何かが出来るとか足掻いていたのではなく、認めなければ結果はまだ出ていないと思っていたそれは、単なる現実逃避に違いない。
それでも、それは私がこの後何をするべきなのか。大げさに言うならば、生きている意味を見つけ出した瞬間に違いなかった。


今日は、私の大切な人が死んで。
今日は、私が生まれた日だ。

終//



第八話+++                         ~from the fate of fragments~
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


ここにある全ては白い。
激しすぎる光と、激しすぎる音と、激しすぎる熱に、激しすぎる力。
この身を焼き、潰し。
あまりにも強い光が目に白い闇をもたらし。あまりにも大きい音はノイズを打ち消し、無音を作る。

眼球は圧迫されて潰れ、色の付いた涙を流す。
皮膚は焼かれ、爪は剥がれ、肉は溶かされ、骨は砕かれる。
これが我の最期。

遠のく意識の中で、その光の中はとても白く白い世界。
それは一瞬の出来事のはずなのに、とてもとても長い時間。
刹那の中にある無限。

光よりも速く飛び去るものの時間が長くなる、相対性理論のように。
死に逝く体は無限回廊に迷い込む。

ソコには何も無い白い空間と、全てがある白い空間。
どちらも白いことに変わりなく、しいていうなら減法混色と加法混色の違いでしかない。

その中にある一つの本棚。
分厚い本が何冊もキッチリと納まった大きめの本棚。
数ある分厚い本のうち適当に一冊を手にとって見る。
ページをめくる。

それは一人の記憶。
遠い日の風景。それは赤く染まる空、黒いカーテンと光るカーテンを引いた北の空、分厚い雲を敷き詰めた大粒の雨を降らす空。
全ての空を通してこの身が触れた全ての事象。この身が存在そのものであるがために、それはあらゆる記録を残した書物。

そうかこれがいわゆる走馬灯というものなのだと。

消えゆくこの身は既に世界の何も切り取ることが出来ず、世界に何も残せない。
何かの拍子で世界から切り取られた余剰廃棄物。

だからこうして時間の中に取り残される。
死ぬこととは他人にとってたった一つの過去の事象であろうとも、主観では生きた時間を遥かに超えた無限ループの檻だったのだ。
なるほどこれは、人によっては天国であり、地獄にもなりうる。
死後の世界の概念において、あながちヘルとヘブンの解釈は間違いではなかったようだ。

妙な悟りをひらき、再び本棚に目を向けてみれば、数ある分厚い本の中にある一冊だけの薄い本。
一番下の段。その隅にある最も薄いそれは本というよりただのペーパーに過ぎない。

気になって手に取ると、それは知らないことばかりが綴られていた。
知らないはずなのに、ほかのどの本よりも的を射たことが記されている。小さな、小さな一つの記録。

―そうかこれが記憶か…。

まだこの身がヒトだった頃の、今の我にとって一番必要な記録。
幸いにも、ココは死という無限の時間が広がる世界。
大切なものが崩れぬように、一枚ずつ丁寧にページをめくっていった。

//








ゴーン。ゴーン。ゴーン…


全ては手に揃った。
「フフフ・・・」
鈴のような彼女の笑い声と同時に、無数の闇に巣食う魑魅魍魎達が、おぞましくうごめく。まるで、彼女を守るかのように無数に溢れ出してくる。
先ほどのこと、突然目の前に現れた障害も、いまはその脅威を落とし消し去った。
赤い唇が僅かに動くと、彼女の近くの地面に魔法陣が描き出され、地響きと共に地中から何かが現れる。
それは、土に埋もれて汚れた、大きな鐘だった。

土泥に汚れ、地中から不気味な音を放っていたそれは、どういうわけか輝きを取り戻し、今度は不気味に光を放つのだ。

『私の力を使う者は、魂を私に食い尽くされるのだ、地獄の魔女よ』

「フフフ…」

空中に巨大な魔法陣。
ゴーン。ゴーン。ゴーン…
鳴り響くのは、これまで以上に大地を揺るがす空気の疎密。

あぁ、終に揃った。

かすれた声は笑みだったのか。
不適な嗤いは、空を切り霧散してゆくだけである。

新緑の森をなでる風、煌煌と光をたたえる湖、人々の影を創る太陽までもが、時を奪われ、一切の動きを止めてゆく。

そして、ココにはもう何も無い。願いがかなった代償は大きい。
それは決して願いをかなえるために捨てたものではなく。
魔女は本当にその虚空に気付いていないとでもいうのか。

本当にその嗤いは喜びから来たものだったろうか?
いつの間にか、魑魅魍魎すら消え去っている。
永遠の時間という鐘そのものも、今では魔女の一部となっているのだ。

全てが止まり。世界は魔女のものとなる。
果たしてその全てが止まった世界で、魔女は何を思い、何を為したのだろうか。

  //




「「あぁそうさ。お前も本当は気付いていたのだろう?
  世界の時間が停止などするはずも無い。
  魔女よ。止まってしまったのは、お前の時間だ。

  簡単な話だ。いくらヒトの魂をくべたところで、世界の時間のエネルギーの前では微弱なものに過ぎないのだから。
  多くのヒトの魂に匹敵するのはせいぜい人一人分の時間のエネルギー。

  もしもの話をしようか。
  もし本当に世界の時間が止まったら、ソレを知ることが出来るのは止まった時間の中で動いているモノだけだ。
  そしてその者だけを置き去りにして、止まった後の時間は過ぎていく。
  過ぎ行く時間で生きている人々には止まった時間など存在していないのだから。

  結局のところ結論は唯一つ。

  時を止めること…
  それは個人の時間を止めることのみにおいて可能となる。

  魔女よ。本当はお前も気付いていたのだろう。
  永遠の時間。ソレが個人の死以外の何物でもないことを。


  そして、コギトよ。それでもお前は無駄ではなかったのだ。
  お前の犠牲が数多くの人間の犠牲を回避させたのだから…

  …いや、そんな文字通りの建前はどうでも良かったな。
  そう、お前にとっての幸いは、「彼女」を守りきったことだろう。
  それだけでお前は充分だったのだな。」」


止まる時刻と始まる時刻の狭間の中で、黒い鴉と白い鳩がクロスを描いて飛び去った。

  //終
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