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鳩のようなその女は眉を顰めた。
今まで自分が圧倒的優位にいた筈の相手――大きな猫だ――が笑ったように思えたからだ。

「ニーチェを知っているか」

特徴的な声ではあるが、その猫ははっきりと人間の言葉を話した。
その声にも、うっすらと笑いが滲んでいる気がする。

「……ええ」

「ならば知っているだろうに」

この世のことわりだなんだとつまらぬことを。
己がことわりから外れたものだからと他人に答えを頼るつもりか?

この声音の笑みは消えない。

「お前の問いのお陰で、私も悟ったよ」



「お前の問いのお陰で、私も悟ったよ」

私は唐突に理解した気がしていた。
自分の存在を悩んでいたところで、そうそう答えは得られない。

万物は己の意志で生まれるものではないのだ。
どんなものでも存在し始めること、即ち誕生することに干渉することはできない。

「何と愚かだったことか」

己のことであろうと、すべてを理解する必要はないのだ。

「礼の代わりに教えてやろうか」

この世のことわりなどに認められる必要なぞないのだ。

私は存在することそれだけで、すでにこの世のことわりに認められている。

鳩のような彼女は困惑と、少しの恐怖を覚えているように見受けられた。
未知のものに触れる感情によく似ている。

「よく聞け」

我が名は、コギト・エルゴ・スム。

「我思う、故に我あり」

それで何の不足があろう。


彼女の赤い瞳がほんの少し見開かれたが最後だった。
瞬きの一瞬ののち、私はそれまでとは全く違う景色を見ることとなった。

そこは今までの場所とは似ても似つかぬ所だった――。
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