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 灼熱の炎の壁の向こうは、枝の攻撃が待っている。
 だが、いつまでもここでこうしているわけにはいかない。
 炎の魔法にも限界があるはずだ。
 一同は目を合わせて、うなずいた。
 ムシャバは気を失っている。彼の法力によるバリアはあてにできなくなってしまった。
「したらば、おっぱじめますか」
 道化が、アルコールを口に含み、火を吐く準備をした。
 それにあわせて、フィリダもシルフィーナのたずなを握り締めた。自分たちだけが走って逃げてもダメ。シルフィーナの上にはムシャバが乗っているから。きっと大した速度では走れまい。
「せーの」
 ハンラスが術を解こうとしたその瞬間。
 空中に歪みが生じた。
 この歪みを見たのは何回目だろう?
 この森に連れてこられた時と全く同じものが、そこに出現した!
「・・・嫌な感じ・・・」
 フィリダが、空間から目をそらさずに言った。
「だが、俺たちには選択肢がなさそうだぜ?」
 道化がやれやれ、またかよ、と言わんばかりに、ため息混じりに言った。
「何を言っている!早く入れ!」
「げっ」
 それは、道化にとって聞きなれた声だった。
 だが、先ほどぼやいた通り、選択肢がないのは事実だった。
 フィリダが、先に飛び込んだ。
 道化も、嫌々ながらそこに続く。
 何といったって、その空間の向こうにいたのは、道化の顔なじみ、海軍少佐だったのだ。
 最後に、ハンラスが術を解くと、空間に飛び込んだ。それと同時に、開いていた空間が閉じる。
 術を解くと同時に襲ってきた枝は、空間が閉じると見えなくなった。

 空間から抜け出た先は。
 宮廷のある一部屋だった。
 どうやら、あの森にワープさせた何者か、とは違うらしい。
 とりあえず、敵に襲われないところにでた、という雰囲気だろうか。
「一歩遅かったら危ないところだったじゃないか?」
 少佐が腕組みをして、嫌味たっぷりに言った。
 一行は、ほっと一息ついていたせいでその場に座り込んでいた。
「へん。穴があったから飛び込んだだけ、自分たちでなんとかするさ」
 道化がひょいっとジャンプしてその部屋の窓辺に移る。
「何だ、まだ余裕があるなら、現場に返してやろうか?」
 少佐の後ろに控えていた魔道師が、豪華な飾りの付いたワンドを掲げた。
「そんなことされてたまりますか。俺の用は済んだ」
 道化は窓をバーンと開けた。
 海に面した宮廷で、窓の下はいくらかの宮廷の部屋の屋根と、その向こうは断崖絶壁だった。
「あ、こら、待てっ」
 少佐が、慌てて道化に駆け寄ろうとしたが、すでに遅かった。
 軽々と、道化は窓の外に身を躍らせる。
 ここにいる全員がわかっている、彼は窓から落ちたぐらいでどうにかなる男ではない事を。

 少佐の好意でムシャバをベッドに寝かせてもらった。
 軽く食事でも?という事になったので、この部屋で待つように言われていたが、ハンラスもフィリダも落ち着かなかったので、さっさと宮廷を後にしてしまった。
 残された少佐は、こめかみに手をやっている。
 確かに、ムシャバの言っていた、「森から脱出する」、という条件は満たしているけれども、結果的に少佐に押し付けた形になってしまった。

「結局。なんだったのかなぁ」
 フィリダが、両手を後ろに組んで、空を見上げながらつぶやいた。
「何者かが口封じしようと、あの森につれこんだのではないかと、ムシャバが言っていたじゃないか?」
「だってさー、私、口封じされるようなことした覚え、ないもん」
「・・・確かに・・・」
 ハンラスは、宮廷から少し進んだところにある噴水で、シルフィーナちゃんに水をあげていた。
 その隣にあるベンチにどかっと座っている。
 見上げているのは、空・・・ではなく、フィリダのお尻・・・。

 ドカン!

 フィリダのかかとおとしが命中した。
「・・・もう!油断もすきもないわね!」
「歳寄りは大切に!」
「このクソじじい!」
 ハンラスが諦めて立ち上がった。
「さて。行商の続きに行くとするか・・・。残念だなぁ。せめて何色かぐらいは知りたかったなぁ」
 とぼやきながら、ハンラスとシルフィーナちゃんは町の中に消えていった。
 残されたフィリダも、その場にいても仕方ないので歩き出した。
 海から吹いてくる風が気持がいい。
 いろいろなことがあったけれど、気づけばもう、日は海に沈もうとしている。
 真っ暗になる前に、帰路につこう。
 あちこちから立ちのぼる、夕食の匂いをかぎながら、彼女は颯爽と歩いていった。
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 ハンラスは気付いていた。
 この中では道化の次に身軽なフィリダが枝に捕まってしまった理由に。
 枝の上の方にあるのは薬草。多分彼女が見つけたものであり、自分たちの生命線だ。
 走っていたハンラスが立ち止まり、ロッドを構える。その足元ではシルフィーナちゃんが眠っていた。
「道化! フィリダちゃんに向かって真っ直ぐ登っていけ! 今度は本気で行く」
 ハンラスの言葉に、少し驚いたような表情を見せて振り向いた道化だったが、すぐに親指を立て、にやりと笑った。
「承知! 薬草は後回しか?」
 どうやら道化も気付いていたようだ。ハンラスもにやりと笑って応じた。
「同時に回収だ――道を作る。私に任せろ!」
 ハンラスの瞳がこれまでと違った真剣な輝きを帯びる。
「ハラ アラミダ ゾラキ ラキダキ ゼム!」
 熱風がその場の全員の頬を撫でる。

 ――ゴウッ!

 ハンラスのロッドから炎が飛び出し、2つの方向へと伸びる。細長いロープのように波打ち蠢くその様はさながら2匹の蛇のようだ。
 炎の蛇はフィリダを取り囲む枝を威嚇し、彼女から遠ざける。そしてすかさず炎の壁となると、道化とフィリダが薬草に到達するルートを確保した。
「おっさん!!」
 道化は薬草へと向かわずハンラスに声をかける。
「!?」
 反応が遅れた。
 鋭く尖った何本もの枝が、ハンラスの身体に襲いかかる。
「お任せあれ」
 ムシャバがハンラスに駆け寄り背を合わせると、瞬時に結界を展開して枝を防いだ。
 そこへ薬草を回収した道化とフィリダが合流する。
 結界を張ったまま、ムシャバが言った。
「我々をここに誘い込んだのが何者かは知りませんが、我々を捕まえようとした連中とは違いますね。ここから出られないことを承知で口封じするつもりだったとしか」
「坊さん、敵さんの心当たりはあるのか?」
 道化の問いかけに、ムシャバは首を横に振る。
「いえ、捕まえようとした連中は何者か知りません。口封じしようとしたのは……我がジクテン公国にとっての敵とみて間違いないでしょう」
「ぬああ!!」
 ハンラスの気合い。炎の壁は彼らとシルフィーナちゃんを中心に円形の壁を形成した。
「知ってること全部話してくんねーかな?」
 道化の言葉に、ムシャバは少し考える素振りを見せた。
「今はまだ無理ですな。その代わりといってはなんですが、あなたがたのタイムリミットを解除しましょう」
「できるのかよっ!」
「それをすると、私はほぼまる一日行動不能に陥ります。その私を連れて森から脱出していただくことが条件となりますが」
 道化とフィリダとハンラスの3人が顔を見合わせる。
 誰からともなく言葉を紡ぐ。
「考えるまでも……」
「ないわね」
 3人の同意を確認し、ムシャバは炎の壁の内側で両手を合わせてお経を唱える。
 やがて彼の頭部が光を放ち、薬草に向かってその光を注ぎ込んだ。
 まず、シルフィーナちゃんの口の中に薬草が入り込む。
 すぐに目を覚まし、立ち上がるシルフィーナちゃん。
 続いて3人の口の中に薬草が入り込む。
「お」
「なんかさっきまで重かった身体が少し軽くなった」
「毒が消えた証拠ですな」
 その言葉を最後に、ムシャバは気絶した。
「おっさん」
「ああ」
 道化とハンラスが協力してシルフィーナちゃんの背にムシャバを括り付けると、森から脱出する手立てを探るように炎の壁の外側を睨み付けた。
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